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書評 「人間の真実はパスカルの“パンセ”に存在する」 佼成出版社 渡部昇一 著

by staff on 2014/9/10, 水曜日
 

「クレオパトラの鼻、それがもう少しひくかったら、地の全面はかわっていたろう。」この言葉がパンセに書かれているのを知ったのはこの本を読んでからであった。人間とは何かを少し考えたいと思っていた時に、渡部昇一さんのパンセの本を書店で見つけた。

パスカルが人間研究に向かったのは理由がありました。ある時「よりどころをいっぺんに失い、孤独にたえかねたのでしょう。健康のため以前から医師に気晴らしをすすめられていたこともあり、パスカルは上流階級のサロンに通うようになります。社交界というところは楽しいところでしたが、次第に失望していきます。パスカルは冷静に人間観察を続けて、こう言っています。 “教養人は、詩人とも、幾何学者とも、その他のものともよばれないが、しかも、それらのすべてであり、またすべてのものの批判者である。” これはパスカルの鋭い人間観察眼といえるでしょう。」こう考えるのです。

そしてパスカルはサロンに集う人々との交わりで繊細なる精神を学ぶのですが、敬虔なキリスト教信者であるパスカルにとって、信仰の話についても世間話のように軽薄に愉快に話す人たちは、その点においては許されざる人々だったのです。そして「キリスト者になりえぬとしたら、せめて真人間になるがよい。」とパンセのなかで皮肉を込めてそれらの人を称賛していると言います。

「人間は、生来、信じやすくて疑いぶかく、小心であって大胆である。」それは、じぶんを偽っているということでもあります。「パスカルは謙虚さについて話す時に、謙虚に話す人は少ない。懐疑論について話すときに、懐疑的に話す人は少ない、と言っています。要するに私たちは、思う、それは思わないにかかわらず、ウソや矛盾だらけで生きているのです。」渡部さんは続けて言います。「人間は、どこかへばりついて意思を貫き通すほど、固定はしていない。宙ぶらりんな存在であると思うべきです。それがわかっていれば、軽々しく人をせめることもなくなるのではないでしょうか。」

「わたしは、考えない人間を想像することはできない。そんなものは石か獣であろう」それは人間だけにある特徴は、考える力であるからです。思考することによって、人間としての理性や思想が存在しうると書かれています。そして人間には言語があるからこそ、理性を自己表現できるのだと言います。「しかし、人間が他の動物より勝っているわけではありません。思考や言語は、人間を人間たらしめている特徴にすぎないのです。」われわれは自分の限界を知ろうとも言いています。計り知れない極大な宇宙の一方には、計り知れない極小の世界があると指摘し、人間はその間に存在していること。私たちには聞こえる音に範囲があり、目で見えるのもある波長の範囲になります。「人間は茫漠たる中間にただよい、つねに不確実で浮動し、一方の端から他方の端へ押しやられる。それゆえに、われわれは確実や安定を望んではならない。人間は本質的に不安定な状態であるから、確実や安定を望むのです。しかし、そもそも堅固な足場がないのだから、確実や安定は望むべくもないのです。だから、確実や安定にこだわるな、とパスカルは教えているのです。」

「パスカルは、神は隠れていると言います。それは、すべての人の前に姿を見せるわけではないということです。もし、まったく姿を見せなければ神を信じる人はいなくなり、誰にでもわかるように姿を見せていれば、信じることがおろそかになってしまいます。」

またこうも言います。

「真の奇跡がなかったら、かくも多くの偽りの奇跡があるはずはなく、真の啓示がなかったら、かくも多くの偽りの啓示があるはずもなく、真の宗教が一つもなかったら、かくも多くの偽りの宗教があるはずもないからである。」神を知る人々は二種類だけだとも言っています。それは謙虚な心を持った人と、どんな障害にあっても真理を見る心を持った人であると。

「うちなる時間に耳を澄ます」それは主観的な内なる時間を指しています。「上流から海まで同じ速さで流れている川があるとします。朝早く、その川の上流から海へ向かって川沿いを歩き始めました。はじめのうちは元気に歩いているから、川の流れがとても緩やかに見えます。それがだんだんくたびれて、夕方になってとぼとぼ歩いている時は川の流れはなんて早いのだろうかと感じるはずです。内なる時間は、その人の状態によって変わります。ですから、内なる時間の感じ方を確かめることが近道になります。」内なる時間に耳を澄ますことで自分の今の状態がわかるというわけです。

パスカルの最後の言葉について「私は貧しさを愛する。かれ(キリスト)もそれを愛されたから。私は富を愛する。それはみじめな人々を助ける手段を供するから。」「パスカルは徹底した清貧生活を送っていました。病気の治療費のほかは慈善に回し、財産はほとんどありませんでした。時には、もっているすべてを貧しい人たちに施し、そのあとに両替屋で借金をしたこともあったようです。」渡辺さんはパスカルの繊細なる精神という考え方は私にとって爆発的刺激であったと言っています。

(文:横須賀 健治)

 

 

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