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書評 「魂の商人石田梅岩が語ったこと」 サンマーク出版 山岡正義 著

by staff on 2014/12/10, 水曜日
 

著者は「長寿企業の共通項をさぐり、その経営手法の源流をたどっていくなかで一人の人物に行き着きました。それが、江戸時代に生きた“魂の商人”石田梅岩でした。」と、今ここにこの本を出す意義を書かれています。「日本人として忘れてはならない古くて新しい人物です。」そして「正直に儲けること、儲けたお金は社会へ還元すること。それが経済人(商人)が本来なすべき役割であり、果たすべき義務や責任であると訴えて、武士道に対する商人道を打ち立てたのです。」

梅岩の考え方「富の主人は世の中に生きるすべての人々である。そのお客様の心にかなうように懸命に商いに努めれば、あなたがいきていくのに、何の心配も生じないはずだ。」「金銭というものは広く流通して、多くの人の生活や生命を支える“公共的”な役目を担っている。

だから商売を通じて得た富や財といえども、けっして自分の所有物などではなく、最終的には世のため、人のために役に立たなければならない。」それは「現代最高の経済思想家であるピーター・F・ドラッカーの事業の主役は顧客である。顧客が事業の土台であり、事業の存在を支える。顧客だけが需要を創出するに通じる。」と著者は考えています。

「梅岩の説く商売と道徳の結合とはつまり、カネ儲けを目的とする商売だからこそ人間性が問われるということです。モラルなきビジネスは必ず強欲主義に陥るのであり、したがって、どう儲けるかはどう生きるかを根底にしていなくてはいけないとする考え方のことなのです。」

梅岩がみずからの思想を世間にひろめる活動をはじめたのが40代半ばであり、のちの「石門心学」と呼ばれるようになります。そして注目すべきはその勉強会の形式でした。「答えを上から下へと垂直に伝授するのではなく、師匠も弟子もともに水平に考えあう。それぞれの意見をぶつけあって、同等の立場で議論を交わし、よりよい結論へと導く。そうした民主的な方法がとられた。」「この講義のスタイルが、のちの著作である都鄙問答(とひもんどう)や石田先生語録などにもみられる。個人の思索だけでなく議論や討論のなかから解答を見出していく問答形式として、結実していきました。」

“現代まで脈々と受け継がれている梅岩の心学”で著者はいいます。「速く・大量に・楽をして成果を出す効率というパラダイムから抜け出し、ゆっくり歩くことに価値を見出し、小さいものに真意を感じとり、人生の苦労に意味を見いだす、そういった生き方が求められているのです。」 「目に見えるものだけでなく見えないものへの価値を見出すことであり、市場原理を超えた倫理、競争や利益を超えた企業の社会的責任や社会貢献に重きを置く社会をつくりあげていくことに他なりません。」

利益を得るのは“商いの道”、堂々と行え
正直でなければ商人道は果たせない
法に照らすよりもみずからの良心に照らせ
いつでも心に道徳のものさしをもて

「都鄙問答(とひもんどう)」は都の人間と田舎の人間が問答するところから名付けられました。梅岩は学問というものは「心を知る」ことから始まると説いています。「すべては心から発するもので、仁、義,礼、智、信といった、良き心を知り、それらをわが身に備えることが人の道を究めることに通じる。」「心について知るだけでは十分ではない。知ったならば、次に実行しなくてはいけない。心や学問だけで、実行がともなわなくては賢人とはいえない。」この梅岩の考え方は日本人の労働観と無縁ではない。「仕事というのは一人前になるための修行であり、心を磨いて、威儀や礼儀を備えた一個の人間として、成長する人間形成の手段であるとする考え方が、日本人には昔からかなり色濃くあります。」これはいい、ぜひ買いたいと思うようになってもらうために「私たちの商売を育ててくれるお客さまをけっして粗末にすることなく、正直や真実をモットーに仕事をすれば、することの十のうち八は自然とお客様の心にかなうようになるものです。したがって、お客様の心にかなうこと、これを第一に心がけて商売に打ち込み、一生懸命努めれば、何も心配ありません」

『第5章 天地自然に即して生きる』で、「私欲を抑えて倹約に努めるのも天地自然の理に叶う行為である。」「人の眠っているときにも、意識しないでうごいているのは呼吸の息です。その呼吸は自分の息ではない。天地の陰陽が自分の身体に出入りしている。」「商いもお金を儲けるだけが目的となってしまうと、満たされることのない欲望を追いかけるだけに陥ってしまいます。商人というものは自分の仕事を通じてお客様によい商品、粗相のないサービスを提供し、その見返りとして気持ちよく代金を支払ってもらう。それによって世の中に必要な品物を全国にあますことなく行き渡らせ、多くの人びとに喜びと安心をもたらす。」梅岩が考えるビジネスの社会に対する役割や責務でした。

松下幸之助さんがいう「古きものが滅び、それによってつぎつぎと新たなものが生まれ育っていくという、日にあらたな進歩が続けられている、たえず生成し、つねに発展しているというところに、宇宙の本質がある。」稲盛和夫さんがいう「森羅万象すべてのものを進化発展させていく宇宙の流れと同調するかしないかで、人生や仕事の成否が決するのではないか。この宇宙の流れと調和し、進化発展していくような考え方や生き方をするならば、人生や事業も素晴らしい成果をのこすであろう。」これは梅岩の宇宙観と相似形を保ったまま、それをさらに発展させたような考え方といえると著者は思っています。

いまこそ、「本書を通して石田梅岩という人物像にふれ、その人格を感じていただくとともに日本人が兼ね備えてきたすばらしい価値観に気づき、輝かしい未来を築くヒントを得ていただければ」という著者の言葉を記しておきます。

(文:横須賀 健治)

 

 

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