Skip to content

書評 「走ることについて語るときに僕の語ること」 文春文庫 村上春樹 著

by staff on 2015/5/10, 日曜日
 

今年のGWは天候に恵まれていたこともあって、五月に入ったとたんに気が狂ったように走り込んでいる。それが正気の沙汰とは思えぬほどなのだ。
GW期間は毎日20Kmをキロ4分台。
今年で、御年ヤンキーズ松井の背番号と同じ数字になる私が、ランニングはじめて10年目だとしても、まだまだ必死で動くタフな心臓にいかされているのだと、つくづく思う。

感謝以外の言葉が浮かばない。
母に感謝、父に感謝、、、、、家族に、友に、ご先祖様に、過去の記憶に感謝。足首に感謝、足の親指に感謝、アキレス腱に、ふくらはぎに、感謝。今日道端で見つけた草とカエルとベビとトカゲとミミズに感謝。そんな気持ちになるのもランニングのお蔭だと言えるかな。

最近はランニングをする人が増えてきている。そんなニュースをよく耳にするし、専門誌だけに頼っていた情報交流は、今やファッション誌でもランニングをテーマにした特集がよく取り上げられてきている。ランニングはとてもシンプルな運動であるが、健康維持の為のスポーツとしては、マイナーなスポーツだったと思う。「一昔前までは」という言葉を付け添えておいた方がいいと思うが。。。マラソン中継で、女子ランナーは特に、ゴールしたとたんに倒れ込んで、抱きかかえられてトラックを後にするシーンを観ると、そんなに苦しいんだ、と思うし、故に一般市民から敬遠されていたという暗黒の歴史があった。それが、高橋尚子(たかはし なおこ、1972年5月6日 – )さんの登場で大きな意識変化が起こった。彼女は42.195Kmをゴールした後も、ニコニコした顔で、まだまだ走れるよとでも言わんばかりの足つきで、そしてインタビューにこう答えたのだ。「沿道の皆さんからの声援が私の後を押してくれました」と。

シドニーオリンピック、2000年9月24日、女子マラソンで優勝。五輪での金メダル獲得は、日本陸上界64年ぶり(戦後初)であるとともに、日本女子陸上界においては史上初であった。またゴールタイムの2時間23分14秒は、ジョーン・ベノイトがロサンゼルス五輪でマークしたタイムを16年ぶりに更新する五輪最高記録(当時)である。高橋尚子さんの戦いはTV中継で全世界に配信された。恐らくその頃から一般市民ランナーが増えてきたと思う。高橋尚子さんの雄姿を観た人は「私も走ってみよう」と思ったのだ。いや「私でも走れるかも」と勇気づけられたのかもしれない。

私は2005年頃からランニングを始めた。最初は走れなかった。まず近所の散歩から。そして少し早や歩きのウォーキング。それからゆっくり走る。500mも走れなかった。足首や膝、背筋、腰など、どこかしらに痛みを感じるのはしょちゅうある。それでも今では三日も走らない日が続くと、時間を無駄に過ごしているような感覚になる。続けてさえいれば走ることが楽しくなる。それは誰でも。

今月ご紹介する本は村上春樹さんの著書。あまりにも有名な方なので、今さら村上春樹さんの本を紹介するのも気恥ずかしいのだが、長編とは違いエッセイには村上春樹さんの生活感が感じられて面白味がある。

村上春樹さんは1949年生まれで御年66歳。専業作家として生活を開始した1982年頃から路上を走り始めたという。彼が33歳の時である。今年で33年のランニング暦の猛者。次のように後書きにある。

僕はこの本を「メモワール」のようなものだと考えている。個人史というほど大層なものでもないが、エッセイというタイトルでくくるには無理がある。(中略)僕としては「走る」という行為を媒介にして、自分がこの四半世紀ばかりを小説家として、また一人の「どこにでもいる人間」として、どのようにして生きてきたか、自分なりに整理してみたかった。
(後書きから引用)

本書は、2005年夏から2006年秋にかけて走った記録を綴ってある。ハワイにて、マサチューセッツ州ケンブリッジにて、東京にて、新潟県村上市にて。マラソンからトライアスロンに至る心境の変化。走るという共通のテーマを持つ者として、時に孤独で自己流の淵にいるとこの本を取り出して、ペラペラとページをめくって斜め読みする。本棚ではなく、机の上や鞄の中に置いときたい本である。

たとえ絶対的な練習量は落としても、休みは二日続けないというのが、走り込み期間における基本的なルールだ。筋肉は覚えの良い使役動物に似ている。注意深く段階的に負荷をかけていけば、筋肉はそれに耐えられるように自然に適応していく。「これだけの仕事をやってもらわなくては困るんだよ」と実例を示しながら繰り返して説得すれば、相手も「ようがす」とその要求に合わせて徐々に力をつけていく。もちろん時間はかかる。無理にこきつかえば故障してしまう。しかし時間さえかけてやれば、そして段階的にものごとを進めていけば、文句も言わず(ときどきむずかしい顔はするが)、我慢強く、それなりに従順に強度を高めていく。「これだけの作業をこなさなくちゃいけないんだ」という記憶が、反復によって筋肉にインプットされていくわけだ。我々の筋肉はずいぶん律儀なパーソナリティーの持ち主なのだ。こちらが正しい手順さえ踏めば、文句は言わない。
 
しかし負荷が何日か続けてかからないでいると、「あれ、もうあそこまでがんばる必要はなくなったんだ。あーよかった」と自動的に筋肉は判断して、限界値を落としていく。筋肉だって生身の動物と同じで、できれば楽をして暮らしたいと思っているから、負荷が与えられなくなれば、安心して記憶を解除していく。そしていったん解除された記憶をインプットしなおすには、もう一度同じ行程を頭から繰り返さなくてはならない。
(著書から引用)


写真は村上春樹さんではありません。私です(笑)

(文:辰巳 隆昭


 

Comments are closed.

ヨコハマNOW 動画

新横浜公園ランニングパークの紹介動画

 

ランニングが大好きで、月に150kmほど走っているというヨコハマNOW編集長の辰巳隆昭が、お気に入りの新横浜公園のランニングコースを紹介します。
(動画をみる)

横浜中華街 市場通りの夕景

 

横浜中華街は碁盤の目のように大小の路地がある。その中でも代表的な市場通りをビデオスナップ。中華街の雰囲気を味わって下さい。
(動画をみる)

Page Top