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書評「アリさんとキリギリス ―持たない・非計画・従わない時代」 さくら舎 細谷 功(著)

by staff on 2019/10/10, 木曜日
 
タイトル アリさんとキリギリス ―持たない・非計画・従わない時代
単行本 176ページ
出版社 さくら舎
ISBN-10 4865810757
ISBN-13 978-4865810752
発売日 2016/11/4
購入 アリさんとキリギリス ―持たない・非計画・従わない時代

「勤労と貯蓄を美徳としたイソップ寓話 “アリとキリギリス” 誕生から二千五百年。人口知能・ロボットをはじめとする技術発展や経済状況の変化によって、 “価値あるもの” と “価値なきもの” が逆転する時代がやってきた。そしてついに “怠け者” とされたキリギリスの “知性” が復権する!」帯に、楽しく働き、自由にいきるためのキリギリス思考法とは? とあった。
また。「持たない・非計画・従わない時代」とあった。全く何だかわからない状態で読み始めた。

キリギリスが活躍できる時代

  1. 「貯める」から「使う」へ
    先進国において、金融緩和が行われているにもかかわらず経済が回復しない。蓄積されたキャッシュの使いどころに苦労している企業が多くあります。いま必要なのは、「使うこと」によって経済活動を活発にしていくことです。
  2. シェアエコノミーの拡大
    「なんでも自分で所有する」というスタイルが「他者と共有して使う」スタイルへと変容している。
  3. クラウドコンピューティングの発展
    クラウド化によってPCや資料を持ち歩く必要もなくなり、アプリケーションもすべてクラウド側にあるという状況が実現され、もはや働く場所の制約もなくなりつつあります。
  4. 変化の加速
    変化が早くなって陳腐化が進んでいくことは「持っていること」のリスクを上げていきます。
  5. 知識から思考へ
    必要な知的能力は「頭の中に知識を詰め込む」ことではなく、膨大な最新情報を使っていかに新しいものを想像するかという思考力に移ってきています。
  6. AIやロボットの発展
    ネット上には読み切れないほどの情報があふれていましたが、それをさらに効率的に収集し、リアルタイムで活用する仕組みがAIなどの技術の活用で可能になりつつあります。
  7. 組織から個人へ
    インフラ事業など、依然として規模が圧倒的に重要な事業が残る一方で、知的かつ創造的な仕事に関しては、組織よりも個人の重要性がますます高まっていくことになるでしょう。
  8. グローバル化と多様性
    グローバル化で必要になってくるのは多様性の認識です。様々な文化や価値観が交差する中で必要なのは、まずは自他の違いを認識し、そこから新たな方向性を考えていくことになるでしょう。
  9. 資本主義への疑問
    金銭欲や物欲のために「お金を貯める」ことの価値が下がり、精神的な充実感を得るために「お金を何に使うか」が重要になってきています。

アリとキリギリスの三つの違い

  1. 「貯める」アリと「使う」キリギリス
    アリの発想は「蓄積されたもの」というストックへの思考が強く、お金や知識に限らず、年齢や経験。地位や名声、あるいは所属する組織など、すべて「持っているもの」を増やし、それを守ることを第一に考えている。キリギリスは、お金は使ってこそ意味があるというのが基本的な考えです。これは蓄えよりもそれを使うことで得られる、形に残らない経験重視であることを意味します。
    また、アリは「過去の経験」を重視します。「歴史からの一貫性」を常に意識し、前例を踏襲することを前提にするために保守的で新しいものには基本的に拒否反応を示します。キリギリスは、常に過去よりもこれからをどうするか?を意識しています。そのためには過去の経緯は気にせずにその場でよいと思った新しいことはすぐに取り入れ、朝礼暮改もまったくいといません。
  2. 「巣がある」アリと「巣がない」キリギリス
    アリは常にいかに集団の中でうまく生きていくかを最優先させて考えます。したがって、何よりもコミュニケーションを重視し、周囲の顔色をうかがって「横並び」を意識しながら「空気を読み」、そして組織内の秩序を守るために秩序やルールを重視します。そのために「常識をわきまえる」ことがすべてのアリに求められます。これに対して個人重視のキリギリスは、自分らしさを出すことを優先させて、他者と違うことは気にせず、序列やルール、あるいは常識といったことも重視しません。
  3. 「二次元」のアリと「三次元」のキリギリス
    アリは与えられた問題を最適な形で解決するのが得意であるのに対して、キリギリスは「そもそも問題は何なのか?」という問題そのものの発見が得意です。
    制約を基に考える「固定次元」のアリと自由を最優先で考える「可変次元」のキリギリスの違いが、問題に対する取組を大きく変え、言い換えれば、お互いに補完関係であり、結果としてどちらも必要な存在にしているのです。

巣があるアリ、巣がないキリギリス

  • ウチ・ソトが明確なアリ、境界がないキリギリス
    アリはチームワークが得意です。チームではミッションを決めればその中において集中して力を発揮しますが、裏を返せば、このような思考回路はチームの外に対して排他的になるという弱みにもなります。
    キリギリスは人に対しても、「誰は仲間だが誰は仲間ではない」という発想もありません。ここの事象に対して、目的に合わせて最善のメンバーを集め、自分の強みを生かして、弱みを補ってくれるような他者と連携して目的を達成していきます。そして一つの目標が達成したら、そのチームは解散するという動き方を志向します。
  • 規則は絶対のアリ、規則は変えるキリギリス
    キリギリスは、規則はあくまでも人間が集団で生活しやすくするための手段の一つであるとしか考えていません。だからおかしいと思えば守らないこともあるし、環境変化によって時代遅れになったものは変えるべきだと考えています。アリだって理想的には規則を柔軟に運用できればいいことぐらいはわかっていますが、一度そんなことを始めたら集団の秩序が維持できなくなることもわかっているので、絶対的なものであるとしておきたいのです。
    天はアリの上にアリを作り、キリギリスの上にキリギリスを作らずキリギリスにとっては人間に上下はありません。「偉い人」にも必要以上にへりくだらない代わりに、年下の人に対して、あるいは納入業者や飲食店員に対する顧客の立場であったとしても敬意を払って接します。
     アリは常に、相手や自分の肩書を前提に、「格の上下」を意識しています。例えば教員でもないのに「先生」と呼ばれることを好み、また呼ばれないと不機嫌になるのがアリです。キリギリスはむやみに「先生」などと呼ばれると「背中がムズムズして」たまらないのです。
    • 決定論のアリ、確率論のキリギリス

      • バラつきが不快なアリ、バラつきを面白がるキリギリス
      • 失敗は敗北のアリ、失敗は勲章のキリギリス
      • 多人数で知恵をしぼるアリ、一人で考えるキリギリス

      アリとキリギリスの共存は可能か

      • 「視野の狭い方が勝つ」のはなぜか
        視野の広さの異なる人間同士が戦いに入れば、視野が広いほうが不利になります。それは「気づいていない」ほうが「気づいている」よりも強いからです。つまり、自分が知らない価値観がある、自分が知らないことがあると気づいていれば、相手の意見をひとまず聞こうとしますが、気づいていなければ譲歩する理由がありません。
      • キリギリスからアリへのバトン
        お互いの違いを認識したうえで上手に役割分担さえできれば、両者の長所を生かしながら共存していくことが可能です。
        自分が川上型の思考回路と認識しているキリギリスであれば、起業した会社をさらに大きくするため、近くにアリ型の人材を配置しておくことでうまく移行を図ろうとするはずです。組織の中でプロジェクトを立ち上げたキリギリスからバトンを受けて、その仕組みを最大限いかした製品やサービスを世に送り出していくのはアリ型人材の役割です。
      • なぜ「9;1」なのか
        人間は一人では生きられませんから、成長に従って社会性を身に付けていかねばなりません。社会性とは、いわば人間社会という「巨大なアリの巣」におけるサバイバル能力のことです。多かれ少なかれ大人というのは、アリ社会の掟を学び、アリに近づいていきます。いざアリの巣が出来上がり、そこの活動が始まればアリの数は増殖する一方です。
      • アリとキリギリス、そしてロボット
        川上でキリギリスが新たな世界を切りひらき、それをアリが大きくして軌道に乗せていく流の中で、最下流の川下側である定型度の高い仕事は徐々にロボットやAIが人間に替わって仕事するようになってきます。したがって、これまで「1:9」だったキリギリスとアリの比率が「キリギリス:アリ:ロボット」という構図に置き換わり、それが「1:5:4」になる日がくるかもしれません。

      あとがきで著者細谷功さんは次にように語られます。AIがレベルアップして「上空に飛び上がり」、人間とAI(自分たち自身)との違いすら客観的に観察できるようになれば、人間をないがしろにすることもなく、人間と自分たちを適材適所に置いた世の中をAIが描いてくれるかもしれません。そしてさらに次のように語られます。「そんな、キリギリスとなったAIが本書を読んでくれる日がやがて訪れることがあるのでしょうか?」と。

      (文:横須賀 健治)

       

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